お知らせ

12月下旬の地方発送

クリスマスにケーキを作ってお客様に届ける仕事に就いて、もう少しで20年が経ちます。昔は期間中に1000台以上のホールケーキを作るお店でも働きましたし、先輩や同僚との話では以前はもっとすごかったとか、何日徹夜して作ったとか、そんなことばかり仲間内で自慢し合っていました。お菓子屋さんにとっては確かに一大イベントでモチベーションも上がりますし、やりきったという達成感もあります。でもそんなことを続ける度に、「本当にこれでいいのかな?」という思いが頭をもたげはじめました。いくら丁寧にとは心がけても、いつもの数百倍の量をこなせば仕事は荒くなります。何日も徹夜すれば集中力も落ちてきてミスも起きますし、細かな部分に目が行き届かなくなります。一年のうち、もしかしたらクリスマスにしかケーキを食べないお客様もいるだろう…折角楽しみにして選んでもらって、自分の100%の仕事のお菓子を届けられないのは失礼じゃないか。
もっとお客様の方を向いた仕事をしなければ…と思うに至り、数年前から注文を受ける数をかなり減らしました。当然、売り上げは下がりますから経営的には……ですが、より手をかけて品物を作れるようになりました。無理して化石燃料で温めたハウスで作った旬でないイチゴ(旬ではないとはいえ、農家さんの努力で最近ではすごく美味しいものを作られています。ただ価格は春先の路地物に比べたら1.5〜2倍近いですし、クリスマス前には3倍以上に跳ね上がります)を使うこともやめたおかげで、入荷できるかできないかに翻弄されることもなくなりました。そのイチゴを使わない分、最高に贅沢な生クリームをふんだんに絞り上げています。嗜好品ですから好みも様々で、全てのお客様にお気に召していただけるとは思っておりませんが「精一杯の品物をお届けできた」という満足を味わえるようになり、私自身もこの年末のイベントを愉しんでいます。
なんだか話が逸れてしまいました…苺こそ使っていませんが、同じ思いで作ったビッシュドノエルです。みなさまの特別な時間に、うちのお菓子がご一緒させていただけることを、とても嬉しく思っております。

 

今年、後半になってバタバタと準備して何度か遠方のお客様にもお菓子をお届け
する機会を設けることができました。何度も同じお客様にリピートいただき、本
当に嬉しく思っております。至らないことだらけではありますが、来年も精一杯
の手仕事で作ったお菓子をお届けできればと思っております。     店主

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悲しいニュース

今朝は、住まう町内の漁協の船が
美保関灯台沖で転覆したという悲しい知らせが…。
東京や大阪にいた時には海の事故を耳にしても
どこかの知らない誰かという三人称の死であったのが
港のある町に住み、子ども達の友人家族にも
お客さんにも漁業関係者がたくさんいて
自身もその恩恵を受ける身になって
二人称に変わりました。

ファストファッションを支える中東の労働者の命も
携帯なんかに使われるレアメタルを掘る鉱夫の命も
きっと同じなんだろうな。

写真は冬の荒れた日本海で
命がけで操業する漁師さんから頂いた赤ガレイ。
悲しくて涙が出る。
奇跡が起こってほしい。

12月上旬の地方発送

今回お届けするシュトレンやパウンドケーキですが、開封後はできるだけ早く召し上がっていただいた方が、風味や食感を良い状態で味わっていただけると思います。
アドべントに合せて少しずつ切って食べると言われますが、ウチではナイフを入れると3日も経たないうちになくなってしまいます(笑)焼き菓子といえど使っている素材は生鮮食品です。まして油脂の多いものなら油は確実に酸化していきます。クッキー類でも焼いてから7日くらいで最高に美味しくなってあとは徐々に劣化しますし、
パウンドケーキも寝かせて美味しいのは10日くらいであとは水分が飛んでパサパサしていき、香りも平坦になっていきます。複数の素材を混ぜ合わせておくと、時間の経過とともにそれが馴染んでいき、渾然一体となった味と香りになります。それぞれの素材の味わいがはっきりと感じられるフレッシュなものか、全体がまったりと一体感があるものを目指すのかは、作り手の考え次第です。当店のものは前者を意識して作っています。実際にドイツでマイスターをとった方も、「ドライフルーツはほとんどのお店は漬け込まないよ〜、前日にお酒と合わせるだけ」とおっしゃってました。私自身も以前は熟成させたドライフルーツを使って、焼き上げてからもしばらく寝かせてと一般的に言われる作り方をしていましたが、毎年試行錯誤して作り続ける中で<新鮮な方が美味しいんじゃないか?>との思いが湧いてきました。
どこかで盲目的に<寝かせた方が美味しい>と信じていたのですね。私は魚釣りが好きなのですが、釣ってきた魚も、魚種や大きさ、季節によって熟成させた方が美味しいものも、新鮮な状態で食べた方が美味しいものもあります。使う素材や、製法によっていちばん美味しい期間は違うのだと気づかせてくれた大切なお菓子です。
作り手の考えや個性がはっきりと表れるので、この時期はいろんなシュトレンを食べ比べてみるもの面白いですね。

また、いつもケークを作る時は生地の口溶けを重視するのですが、この生地では生地にたっぷりの生キャラメルを配合することで重厚な味わい深さを出しました。一方で配合中の卵を卵黄と卵白に分け、卵白をメレンゲにして加えて重くなりすぎないように配慮しています。
ぶ厚くカットするよりも、1cm厚くらいにスライスしたほうが美味しく召し上がっていただけると思います。

 

先日お客様から頂いたゆずでコンフィチュールを炊きました。なんともいえない良い香りに
厨房中が包まれました。七日は二十四節気でいう大雪ですね。車のタイヤ交換も終わって冬
の備えができました。クリスマスに向けて頑張りたいと思います。         店主

11月下旬の地方発送

この土地でお店を始めた時、一番困ったのはフルーツが手に入らないことでした。
街にいる時には業者さんに前夜にファックスを一枚流しておけば、翌朝には品物が届いていました。苺、ラズベリー、ブルーベリー、ミュール、パイナップル、スターフルーツ、ブラッドオレンジ、ほおずき、マンゴー、パッションフルーツ.....日本全国、また世界の市場から季節は関係ないとばかりにたくさんの品物が揃っていました。こちらでは、青果店のある市内からは遠すぎるため、配達はしてもらえません。また、フレッシュのラズベリーやペリカンマンゴーなど輸入フルーツは「需要がない」と言われて市場にすら入ってきませんでした。手に入る場所は物流が違うAEONなどの大手スーパーだけ。毎日そこに買い出しに行くわけにもいかず、知己の京阪神の業者さんから送ってもらいやりくりしましたが、とても違和感を感じていました。恥ずかしながらそんな状況に身を置いて初めて、自分が扱っている果物の旬はいつなのかな?と調べたような次第です。その過程で、たくさんの流通業者さんや、農家さんの努力で品物を届けてもらっていること、石油燃料を燃やして温めたハウスで、本来の旬でなくても無理して育てていること、海外に日本の苗を持って行き安価な労働力で育てたものを輸入していること、などいろんなことがわかってきました。とても便利ですし、それらを飾ればショーケースは一気に華やぎます。苺の赤は特に鮮烈です。それをのせた商品は真っ先に売れていきます。
商売としては、そこから離れることはとても怖かったのですが、無理してフルーツを使うことをある時期から辞めました。旬の美味しいものが手に入ればその時だけ。それ以外は必要最低限のものしか使わない。生のフルーツを使った華やかな飾りはできないけど、その分中身に加工した<旬の時期に収穫して作られた>ピューレなどを使った層を作り、味わいを出そうと決めました。
なので今でもよくお客様から「ショーケースに色がないね」と言われてしまいますので「中身に詰め込んでおりますので、一度召し上がってみてください」と返答しています。晴れの日のお菓子にはそういった華やかな演出も必要でしょうが、僕は背伸びしないで作る今の自分のお菓子が好きです。手に入らないなら....と少しづつ植えた果樹やハーブが季節ごとに恵みを与えてくれるようになりました。四季の移り変わりを感じながら仕事ができる今の環境をとても愛おしく思っています。

 

年末にしか作らないシュトレンを仕込むのは久しぶりすぎて毎年ドキドキするのですが
その一年に学んだことをどう咀嚼してそのお菓子に落としこむのか考えてブラッシュア
ップしていく作業はとても楽しいです。                 店主